トロねえ物語。第二話

トロねえのイメージその二。

姉弟初対面 

 

カーナビに導かれてたどり着いたのは、パチンコ屋の前だった。まさかパチンコ店が家ではないだろう。 

電話する。しかし通話中で出ない。何度も掛けてみたが、二十分も通話中のままだ。 

まさかここまで来て面会拒否か、と疑うような行動だ。 

実はおいらに会えることが嬉しすぎて、共通ブロ友のkingさんに長電話をしていたらしいが、それは後ほど知る話である。 

仕方ないのでコンビニに行って住宅地図を見せてもらい、トロねえ宅を確定する。 

玄関まで行ってインターフォンのブザーを押し、「来たよ」と言ってやると、 

「え! ウソォ! キター!」という声がスピーカーから聞こえ、次いで猛烈な勢いで階段を駆け下りる音が夜の住宅地に響いた。 

そうして玄関のドアが爆破されたかと思う速度で開き、トロねえがけたたましく笑いながら姿を見せた。 

「うわー! 生カツオや! ギャハハー! なんで家が分かったん? うわ! カツオめっちゃイケメンやな!」 

初めて実際にトロねえを見て、おいらの持った印象は 

《小顔だな。脚細くて長っ!》 

というものだった。声がデカくてうるさい女ということは、書くまでもないだろう。 

噂どおりの美人か確かめようとしたが、顔の右半分が長い前髪で隠れている。 

しかも顔をまともにこちらに向けないので、イマイチはっきりと分からない。  

 

 

なぜか目を合わさぬ女 

 

とりあえず、ということで、三階のミニトロの部屋に連れて行かれた。高校生の娘の部屋である。 

シンプルな部屋の白いベッドの脇には、清楚な雰囲気の少女が立っていた。 

トロねえいわく、アルプスの少女ハイジみたいな娘。とのことだが、それも納得できる素朴さだ。 

「なっ、カツオや! めっちゃイケメンやろ! めっちゃイケメンや! もうめっさイケメンやんなあ!」 

トロねえは何度もイケメンを連発して、娘からの同意を強要している。 

ミニトロは恥ずかしそうに照れ笑いを浮かべたまま、騒がしい母親に仕方ない同意の視線を送っている。 

部屋に入ったときからトロねえはずっと娘に顔を向けており、全然おいらのほうを見ていなかった。 

長い前髪に隠された右面しか見えないから、その姿はまるで髪の毛だけのお化けだ。 

二階では猫が仕切りと鳴いており、猫好きのおいらは鳴き声をマネて招いてみたが、 

「あれはペロやねん。めっさヒトミシリで、姿を現せへんねん」 

という説明だけで終わった。もちろんそのときも顔をこちらに向けない。 

人見知りは自分ちゃうんか。とまたツッコミを入れたくなったが、代わりにもう一匹の猫、トロを見せると言われた。 

トロねえのブログネーム「トロペロ」は、この二匹の猫たちからきているとのことだ。

 

 

今夜の寝場所 

 

一階に降りて、トロと対面する。 

トロねえのブログ記事で写真を見ていたが、それから想像するより遙かに大きな猫だった。 

長毛のアメショーで、顔の大きさなど、抱いているトロねえとほぼ同じである。 

つまりそれだけトロねえの顔の可視部分が狭いとも言えるわけだ。 

しばらくトロをいじくり回してから、今夜の寝場所を探すことにした。 

結局、ネットカフェで寝るよりは自分の車で寝たほうがいいという話になり、トロねえの家から布団を借りる。 

おいらの車の後部はフルフラットになっているので、ちゃんと布団を敷いて寝られるのだ。 

「いい公園があるねん」とトロねえに案内された場所は、浮浪者が集まりそうな近所の小公園だった。 

そこに路肩駐車して寝ろと言うのだ。 

「いつも野宿してるから平気やんなあ? んじゃ居酒屋でも行くか?」 

トロねえの楽天的な性格は悪いものではない。 

おいらも旅でこんな場所に寝ることはないが、ここで寝るのに不安を覚えることもないし、ちょっと楽しい気分さえしている。 

飲酒運転にならないように車をそこに置いて、歩いて居酒屋に向かった。