エロるいさんの店へ
デパートの地下街で、トロねえのお母さんの法事に集まる親類縁者たちの土産物を買う。
今日は金曜日。トロねえの仕事が休みなのも、昨日の夜のバイトがなかったのも、全くおいらにとっては偶然の都合良さだった。
そして明日は遠距離の実家に帰ると言うのだから、この大阪訪問は実にジャストタイミングの運命的作用が働いたとしか思えない。
昼はどうする、という話が出て、大阪に来たのだからお好み焼きが食べたいとリクエストした。
そしてお好み焼きといえば、エロるいさんの店がすぐに思い浮かんだ。
お互いにコメントをくれる相手にしか訪問しない人間だから、おいらとはすっかり自然消滅していた間柄だが、何か機会があればまた交流したいと思っていたのだ。
噂によるとすごい美人で、お好み焼きも「めっちゃ美味い」らしい。
トロねえとも仲がいいということだから、これは行くしかないではないか。
「昼間は店やっとらんと思ったけど、電話して開けてもらおか」
トロねえが言って、まずは共通知人のブロガーにメールして、るいさんの電話番号を聞き出す。
仲がいいと言ったわりには、番号を知らなかったのだ。
「もしもし? るいちゃん? 今カツオが大阪来てんやけどな、るいちゃんの店でお好み食べたい言うてるねん。
今から行くもんでな、店開けて待っててくれひん? うひゃひゃ」
なんとも強引な電話だが、るいさんは承知したらしかった。
「ほんま? じゃあ行くわ。カツオ、めっちゃイケメンやねん! 楽しみにしとってや」
言わなくてもいいようなことまで言っている。
無事にデパートから出ることができ、駐車場で車もちゃんと見つけられて、しかし駐車券の扱いが分からずに、払わなくてすんだ駐車料金を取られて、二人で文句を言いながら車を走らせる。
メールで住所を教えてもらったので、カーナビに任せてほぼ迷うことなくるいさんの店、『こむぎ』に到着できた。
こむぎにて。お好み焼きを焼くるいさん。
美女発見!
店に入ると、そこにまるでモデルのように長身スタイル抜群の美女が立っていた。
「いらっしゃい~。はじめまして。私のこと、憶えててくれたの?」
るいさんの素敵な笑顔に、さすがにちょっと緊張してしまったおいらの横で、トロねえは
「久しぶりやな! ほれカツオ、るいちゃんすごいベッピンやろ? るいちゃん、カツオや! イケメンやろ?」
と美男美女の紹介をしながら交互に顔を覗き込んでニヤついた。
小ぢんまりとして落ち着きのある店内は、黒いテーブルが六セットあり、おいらとトロねえは右手の真ん中の席に着いた。
まずは飲み物は、と訊かれて、トロねえは昼間からチューハイ、運転するおいらはウーロン茶を注文する。
お好み焼きは、おいらは一番なんでも入っていそうなミックスを選び、トロねえは最初から豚玉に決めて、電話の時点ですでに注文していた。
飲み物を持ってくると、るいさんは奥の調理用鉄板で調理をし始めた。
各テーブルにも鉄板が埋め込まれているが、それは出来上がったお好み焼きを冷めないようにするためらしい。
トロねえはチューハイを一口飲むと、すぐに顔を赤くして、ますます饒舌に話し出した。
まあ内容は笑えるがくだらないことで、聞いた端から忘れていくようなものだ。
ふと店の奥に目を向けると、るいさんが長いまつげを伏せて、献身的においらたちのお好み焼きを焼く姿が見えた。
艶やかな髪には赤いバンダナを巻き、色っぽい唇には慈愛の笑みを浮かべ、色白のしなやかな指先で、鉄製のへらを動かしている。
「うわっ、カツオ、めっちゃうっとりしてるいちゃん見とる!」
トロねえの驚く声が聞こえてきたが、おいらは目を離さなかった。
「え~?」
と照れた表情を向けてくるるいさん。なんて可愛い笑顔だろう。
「うっとり」と言いながら眺め続けている横で、再びまたトロねえの声が聞こえてきた。
「あれっ、るいちゃんが焼いとるやんけ?」
今頃気づいているのか、という言葉である。
「るいちゃん、お好み焼き焼けるんやっけ? 焼けん思っとったわ。いっつもるいちゃんのママが焼いとるきい」
「焼けるよお。だったらいったい私はこの店で何しとると思っとったん?」
「いや、るいちゃんママが焼いたやつ、ただ運んどるだけか思っとったわ。わひゃひゃ」
失礼なトロねえの言葉に、ちょっとむくれた表情を見せるるいさん。その怒った顔も素敵だ。
「うっとり…」
「うわっ、またカツオがうっとり言うとるわ。ほんま、どんだけるいちゃんに惚れとんねん!?」
トロねえの言葉を聞き流して、おいらはるいさんを眺め続けた。